龍生が居住まいを正す。
龍生
「ごめんなさい!
僕たち、さっき話した噂の人がどんな人かを調べに来たんです。そしたらこの家がなんだか不思議で、三人で見惚れてて」
八千代
「そうよね。夕日に照らされて神秘的だった。
カズ君は帰ろうとしてたけどね」
龍生
「そうだよ。カーは一人で震えちゃってさ」
和馬が反論する。
和馬
「八千代ネェだって震えてた!」
八千代
「わ、私は平気だったわよ」
グレコが三人のやり取りを見ながら笑う。
グレコ
「まぁまぁ、何やら楽しそうじゃのぉ。
ふふふ。それで、謎の……いや、噂の老人、伝説のグレコさんと会ってみて、どうじゃ?」
グレコは嬉しそうに、鼻高々な様子で聞く。
和馬が真っ先に答える。
「リンクル可愛い!」
リンクル
「バウ! バウバウ!」
八千代が答える。
「ニードさんのクッキー最高でした!」
「それに、とっても力持ち! びっくりしました」
龍生も続ける。
「そうそう、ニードさんのクッキー、めちゃくちゃ美味しかったです!」
グレコは少し肩を落とす。
グレコ
「お……ぉ、おぉ、そうか。
そうじゃろう、そうじゃろう。
ニードのクッキーは美味しいし、リンクルは可愛いわのぉ」
ニードは無表情のまま尋ねる。
「学校での疑問は解決なさったのですか?」
龍生
「あー、グレコさんは普通にいい人だったかな」
グレコ
「おぉー、普通のの……」
八千代
「親切でニコニコしてるお爺様ですね」
グレコ
「おぉー、お、お爺の……」
和馬が、グレコとリンクルを見比べる。
和馬
「目がリンクル似かな?」
グレコ
「リンクル似か……」
グレコがリンクルを抱っこして、その顔を見つめる。
言葉には出さず、
似とるかのぉ。
という顔をする。
龍生
「そういえば、あの看板は何だったんですか?
あと、さっき話してたお墓探偵って……」
グレコがまだリンクルを見ているので、ニードが説明する。
ニード
「先ほどグレコ様からお話があったお墓探偵というのは、お墓に刻まれた情報から、お墓に眠っていらっしゃる方々の願いや祈りを読み解くお仕事になります」
八千代
「お墓から願いとか祈りが分かるんですか?」
龍生
「お墓って、あのお墓でしょ?」
和馬が少し不安そうに言う。
和馬
「お墓ってちょっと苦手です」
ニード
「皆さんが経験あるかは分かりませんが、皆さんにも必ずご先祖様がいるのです。その方々から皆さんにも何か願いが託されているかもしれません」
八千代
「私は毎年お盆には家族でお墓参りに行ってます。でも、お墓に願いや祈りがあるって知りませんでした……」
ニードが続けようとする。
「お墓には……」
グレコが咳払いをする。
「ゴホン」
グレコがニードを見つめる。
ニードは一歩下がる。
グレコ
「ここからはグレコ様がご説明なされます」
グレコ
「すまんな、ニード。
ニードが話しておったが、お墓には確かに願いや祈りがある。
それも一人だけではない。
そこに眠っておる人々の人生や一族の関係、その時代にどのような暮らしをしていたのか、把握できることもある。
墓はな、いわばその人が生きた証なんじゃよ。
ただ石に刻まれた文字ではないんじゃ。
どう生き、どのように人生を紡いできたか。
八千代君がお墓参りを毎年しとるなら、きっとご家族はそういった話もしとるはずじゃよ」
八千代が思い返す。
八千代
「お墓参りして、その後いつも親戚が集まってご飯を食べるんですけど、お父さんとか大人はみんなお酒飲んで、毎年お爺ちゃんが言ってたっていう口癖で、親戚みんなが大笑いしてるくらい。
毎年だから、私はまたかぁって……」
グレコが笑う。
グレコ
「ほほほ、そうじゃろ、そうじゃろ。
それも一つの願いや祈りじゃ」
「お爺さんはさぞ、皆に愛されとったんじゃろうの。そして皆の心に生きておる」
八千代は、まだ意味をつかみ切れず、不思議そうな顔をする。
龍生
「うちは毎年はお墓参りしてないけど、確かに夏休みとか親戚が集まってお酒飲んでるね。
大人はほんと、お酒好きだよね」
グレコは、その少しずれた言葉も優しく拾う。
グレコ
「そうじゃの。
お酒を飲み、故人を偲ぶ。
これは日本だけでなく、世界的にあることじゃが、日本では特に多いかもしれんのぉ。
特に夏休み期間にはお盆があるからのぉ。
みな、その時期になると、襟を正す日本人は多いはずじゃよ」
和馬がクッキーを食べ、少し眠たくなる。
うつらうつら……。
「バウバウ!」
リンクルが鳴く。
和馬
「ハッ」
龍生
「大丈夫か?」
八千代が時計を見る。
八千代
「あ、やだ……もう18時30分だ!」
龍生も驚く。
龍生
「わ、もうこんな時間?
そりゃ和馬も眠たくなるよ。
八千代、立って歩ける?」
八千代
「う、うん、なんとか?」
グレコが気遣う。
グレコ
「あまり無理をせんほうがええ。
家は近いのかね?
よければご家族に電話してみてもよいが?」
龍生
「大丈夫です。もう歩けそうです」
ニード
「私がご自宅までお送りしましょうか」
龍生
「大丈夫です。僕の家の途中なんで、送って行きます」
グレコ
「そうか。それでは坂を降りた所までは、わしも同行しようかの。
リンクル、行くかね?」
「バウワウ!」
和馬が喜ぶ。
和馬
「リンクル! 行こう」
ニード
「少しお待ちください」
全員がもう一度席につく。
八千代
「お話が面白くって、もっとお聞きしたかったです」
龍生
「そうだな、グレコさんの話、お墓探偵の話をもっと聞きたかったです」
グレコが嬉しそうに答える。
グレコ
「そうか、そうか。ではまた来ればよい。
いつ来るか伝えてくれれば、ニードがまたクッキーなど用意してくれるわい」
八千代
「えー、いいんですか?
私、ニードさんのクッキーのファンになったんです!」
龍生
「俺も〜!」
和馬も手を挙げる。
「僕も〜!」
グレコが複雑な表情を浮かべながら、
「そう……じゃろうな」
「わしも、ファンじゃ」
ニードが戻ってくる。
ニード
「残っていたクッキーですが、お土産に分けましたので、お持ち帰りください」
三人が喜ぶ。
「えー、やったー!」
「嬉しいです!」
「帰ったらお母さんにあげよー」
グレコが小さくつぶやく。
「それは、わしの明日の楽しみ……」
場面が変わる。
坂を下った交差点。
グレコとリンクルが、三人を送ってきている。
グレコ
「遅くまで引き留めて悪かったのぉ」
龍生
「こっちこそごめんなさい。
なんか色々勘違いがあったみたいです。
学校のみんなには、しっかり説明しておきます!」
八千代も頭を下げる。
八千代
「お土産までもらって、ありがとうございました。
またお話を聞きたいので、ニードさんに会いに行ってもいいですか?」
和馬がリンクルへ声をかける。
「リンクル、また会いに行くからね!」
グレコ
「おぉ、おぉ、いつでもいいぞ。
ただ、出かけておることも多いから、これを渡しておこうかの」
グレコが「グレコお墓探偵社」と書かれた名刺を龍生に渡す。
グレコ
「そこにある電話番号にかけてくれれば、わしかニードが電話に出るからの」
龍生が名刺を見てから言う。
「電話はあんまり使わないから、グレコさん。
明日はお時間ありますか?
僕たち昼から時間あるんで!」
八千代が注意する。
「いきなり失礼だよ」
和馬も続ける。
「僕も行くー!
ね! リンクル!」
リンクル
「バウ!」
グレコ
「まぁ、わしは大丈夫じゃよ。
依頼が幾つかあったから、その調べ物をしとるわい」
龍生
「じゃあ、明日もう一度詳しく聞かせてください!
お墓のこと!
今日はありがとうございました!」
八千代も頭を下げる。
八千代
「ありがとうございました。
では、私も明日お伺いします。
ニードさんにもよろしくお伝えください」
和馬も手を振る。
和馬
「グレコさん、ありがとう!
リンクル、バイバイ!」
グレコ
「ではまた、明日じゃの。
気をつけてのぉ」
グレコと、しっぽを振るリンクルは、三人の姿が見えなくなるまで、そこで見送る。
つづく
→ 4. 洋館帰り道へ